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高知市で在宅医療に取り組む医師、和田忠志さんが、医療のことや日ごろ考えること、身辺のことを自在につづります。

 

書評「村で病気とたたかう」若月俊一著 岩波新書

 今回は私が非常に感銘を受けた本をご紹介します。本書は、故若月俊一氏(当時佐久病院院長)が佐久病院に赴任し、その改革と事業拡大の過程を書いたものです。

 彼の気持ちとしては、共産党に入党できなかった彼の後ろめたさが主体にあります。そして、彼は政治活動家ではなく、実践の中で民衆とともに医療を改革する道を選びます。

 彼は「都会育ちの弁舌の徒であるインテリゲンチャが、ロマンチックな革命的情熱をふりまわして、がんこで古い因習にかたまっている農民の中に入っていく。だが、思いもかけない個人的事件や、恋愛や、そういったものが実践の中にはあとからあとからでてきて、-農民の意識を改革するどころか、かえって自分の身をほろぼすもとになるのである。実践とはしばしばそういうものだ。」と書いています。

 私も、へき地に入った医師を何人も知っていますが、医療機関の古いスタッフとの確執や、有力者との利害関係が元で挫折する人も多いというのが率直な印象です。地域医療を目指して仲間をつくっても、金銭や労働の配分をめぐ争いになり、結局決裂することも多いようです。

 人間はそれほど強くありません。若月氏は、このような人間の弱さを深く洞察し、また、地方の古い因習を深く理解し、現実の困難を次々と克服し、住民の信頼を勝ち得ながら活動を拡大するところが驚きです。

 彼は農村の貧困と労働の過酷さに着目し、民衆生活の中の治療に着目します。定期的な血圧のチェック、独自の薬物開発による回虫の駆除、農器具による外傷の予防、脊椎カリエスの治療などなど…。これらは、当時の農村で若くして結核や脳卒中やがんなどで死亡していく多くの農民を診た悲しみの産物でもあると思います。

 また、若月氏は、経営者らと対話するときは、いつも「現実的なお金の話」に非常に強い関心を示したと聞きます。理念主導でありながらも、現実主義者である若月氏は、お金に深い関心を寄せたのです。醫の仁術に算術を加えるともっと強いということです。

 彼は、経済原則を知り、緻密な経営戦略をもって事業拡大に臨みました。また、驚くのはその事業拡大の速度です。確かに病院拡大自体は、当時の医療制度の中で、現在よりははるかに困難が少なかったと思われますが、圧巻なのが医師確保の速度です。もとより、医師が農村に行きたくないからこそ医療が遅れている事情があったのですが、次々と若い医師を導入していきます。若月氏の人物の魅力の成せるところです。

 本書は地域医療を志す人のバイブルですが、一般の方々にも読んで頂ける平易な言葉で書かれており、しかも、非常に興味深く読める文体と構成になっています。

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