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半世紀以上の登山歴を持つ竹村義仁さん(高知市)が、山や自然から学び考えたことを一歩、一歩記していきます。

 

2008年4月アーカイブ

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だいぶ前のことですが、ある山で行方不明になっていた中高年登山者10数人が自力で下した、ということが新聞に載っていました。

そのテレビニュースでは、叱責(しっせき)に近いインタビューを受けて、リーダーがさかんに謝っていました。雪が深いため目印の赤布を探すのに時間がかかったので、野宿をしたのだそうです。

道しるべ代わりに木の枝などに赤い布やテープを取り付けることがあります。それがないと道がわからないとか、ツェルト(非常用テント)などビバーク(野宿)のための装備を持っていなかったとか、このパーティの問題はあるようです。

しかし、何かのトラブルが発生してビバークすることは、登山では当たり前の行動です。それ自体は叱責される事ではありません。しかし、マスコミは一晩帰らなかっただけで大騒ぎをしていました。

 私は女房に「山から帰って来なくても、何もするな」と言ってあります。警察へ捜査願いを出す必要はないということです。

「1
1日くらいなら心配しないけど、何日も経つと放っておくわけにもいかないでしょう」というので、その時は古い山仲間に連絡するように言ってあります。

その時の気象状況などから判断して、「竹村ならあのあたりでビバークしているだろう、ちょっと見に行ってみよう」とか「まぁ、ほっとけ」とかてきとーに判断してくれるでしょう。

もちろん、アクシデント(予期せぬ事態)に備えて、日帰りの山行でも、ビバーク装備を常に持っています。

ツェルト、グランドシート、断熱シート、レインスーツ、予備食、非常食、コッフェル(鍋)、ガスストーブ(コンロ)、救急薬、ヘッドランプ、無線機、ナイフ、ロープなどなど。食糧は4食分をいつも持っています。

そのため、一眼レフカメラも含めた総重量は10-15kgくらいになっています。これは工夫をしてもっと軽量化ができます。しかし、その程度のザック(リュックサック)を背負って普通に行動できなければどうしようもないとも思います。

ちなみに、山でビバーク(野宿)するときに一番必要な装備は何だと思いますか。

多くの人はツェルトを挙げると思います。ツェルトは袋状になった小型のテントで、冬山では必携でしょう。

しかし、四国の山で野宿をするようなときには、ツェルトはなくてもかまいません。野宿をしていて一番困ることは、体温を地面に奪われることです。つまり、一番必要な装備は、断熱シート(エアーマット)なのです。

私はアクシデントが起きなくてもよくビバークをします。写真を撮っていて時間が遅くなり、日暮れまでに登山口へ帰れなくはないが、まぁここで野宿しようか、などと軽々に予定を変更します。道迷いくらいで、(ビバークをすることはあっても)遭難することはありません。

私が遭難するとしたら、何でもないところでうっかり足を滑らせたりバランスを崩して転倒し、頭を岩などにぶっつけて意識不明になる、といったケースでしょう。自分の行動を観察していて、バランスを崩す状況もわかっています。疲れているときです。

登山では30分か1時間に1回休憩を取ります。私の場合は、いろいろやってみて、30分歩いて3分休むのが一番調子が良いようです。

ところが、よい休憩場所がなかったり、「確かこの先に景色の良いところがあったなぁ」などと、疲れたまま歩き続けているときに、バランスを崩して、体勢を立て直せずに尻餅をついたりすることがあります。

そういう状況になったときには、「お、ケアレスミスモードに入ったぞ」と考えて、"一本立てる"ことにしています。

一本立てるとは、その昔、山小屋に荷物を運んでいた"ぼっか"と呼ばれる人たちが、重たい荷物の下に杖をあてがって、荷を背負ったままで立ち休みしたことに由来します。1分休憩するだけでも、ケアレスミスモードを脱出できます。

あわてずあらせず、じっくり行くことがポイントでしょうか。

【写真】筒上山の頂上で日の出を待つあいだツェルトを張った

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剣山山系の三嶺(みうね/さんれい)の中腹に「さおりが原」という場所があります。最初にそこを訪れたときは、原生林の中をとうとうと流れる小川があり、そのほとりに花が咲き乱れていて、別天地に迷い込んだかと思いました。実に良いところです。

しかし、私には気に入らないことがひとつあります。その地名です。

昔にどこかで聞いた話では、歌手か女優の名前から付けたのだそうです。

そういう地名の付けかたに、私は大いに疑問を感じています。地名には重要な意
味があり、それを軽々に変えてはならないのです。

私の記憶が正しければ、もともと、この場所は「ヌル谷のなろ」と呼ばれていました。

「ヌル谷」とはここを流れている小川のことでしょう。

はじめは、ぬるぬるした谷かと思いましたが、そのような場所がみつかりません。ある山仲間が、「それは風呂の"ぬるい"(水温が低い)と同じじゃないか」と教えてくれました。なるほど、「緩やかな谷」という意味でしょう。

土佐では、山中にある平らな場所は「なろ」といいます。多くの場合「奈路」の字が当てられます。伊予では「平」の字を書いて「なる」という地名が多くあります。

「なろ」も「なる」も同じものでしょう。

一方、土佐には「~が原」という地名はありません。そういう地名を私は知りません。もちろん、「甲原」や「岩原」など「原」の字が付く地名はいくつかありますが、「かぶとがはら」ではなくて「かんばら」です。

「はら」や「ばら」はあっても「~がはら」はないのです。九州では原を「ばる」といいます。そういう風に地方によって違うのです。他の地方の地名を軽々に持ってくるべきではないのです。

とつぜん話が変わって、私が小学生の頃のことです。通学路に「滝山」という場所がありました。祖父から「滝山では立ち止まるな」と厳命されていました。

夏にはそこにカンタロウ(大きなミミズ)がたくさん死んでいて悪臭を放っていました。「あぁ、この毒ガスことだ」と思って、私はいつも息を止めて走り抜けていました。

「たき」とは断崖絶壁をいいます。山崩れや落石のある場所のことです。祖父の教えは、「そこは落石の危険があるから、のんびりせずにさっさと通過せよ」ということだったのです。この場所にこの地名を付けたのは、先人の知恵なのです。

 むかしむかし、あるところに小さな村がありました。あるとき何日も大雨が続きました。長老がいった。

「おい若いしよ。こりゃいかんぞ。山が崩れる。へんしも(急いで)逃げにゃあいかん」「おじやん(爺さん)、どこへ逃げたらえいぜよ」「このそらのなろへ行け」「なろじゃねゃ」「おう、おきのたきやまは通るなよ」。村人は全員助かったのでした。めでたしめでたし。

【写真】ヌル谷のなろ

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登山で使うナイフやフォーク、スプーンなどを俗に"ぶき"と言います。確かにナイフは武器の一種には違いないのですが、その由来は定かではありません。

ロシア語から来ているという話を聞いたこともありますが、そのあたりに詳しい方がいたら教えてください。

『食うことは生きることである。他の生き物を殺して、その命の上に己の命を永らえることである。おまえは食うに値するか』

そういう物騒な話は置いておいて、山で一番の楽しみは食事です。

しかし、コンビニの弁当だけではちょっと寂しいから、何か料理を作りたいと思っても、なかなか難しいものです。

食料や調理器具などを全部自分で背負っていかなければなりません。時間や場所や水などがなかなか取れないし、往々にして風雨や吹雪の中で作ることになるからです。

たいがいワン・バーナー(コンロ)超簡単料理になります。

私の定番は焼き肉です。

ライチョウやカモシカをちょいと捕まえてきてジュージューと丸焼きにして…。まさか、そんなことはしません。

ちゃんとスーパーや日曜市で買った肉や野菜を使います。

料理といっても、コッフェル(組み合わせ鍋)やフライパンでただ焼いたり煮たりするだけです。

焼き肉のようだったり野菜炒めのようになったり、水炊きというか鍋物というか闇鍋というか、要するに何かわからない料理で、他の人に食べてもらえるような料理は作ったことがありません。

そんなものは料理とはいわんか。

山で食事をするときには、必ずお祈りを捧げます。

山はもともと神様のお住まいになっているところ。そこへ武器を携え、土足でずかずか踏み込んでいるのです。

神様の怒りに触れないように、よくよくお願いをしなければならないのです。

『山々の神々に感謝し奉る。我らが山旅をつつがなきように守り給え。われら神々の座を犯す所存、ひたすらこれなく。ただいっときの登頂を願うのみ。なにとぞ許し給え、静まりたまえ、道を開きたまえ』

あ、街ではこういう長いお祈りはせずに、ただ一言いうのが好まれるようですね。
「かんばーい!!」と。(山で何やってんだかなー)

【写真】昭和30年代から使っている武器。もちろん、新しいものも持っています、ちゃんと。

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