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半世紀以上の登山歴を持つ竹村義仁さん(高知市)が、山や自然から学び考えたことを一歩、一歩記していきます。

 

2009年7月アーカイブ

D090713-003 先日、映画「劔岳 点の記」を見ました。

明治40年に陸軍陸地測量部の芝崎芳太郎たちが、当時未踏峰とされていた剣岳(富山県)に三角測量のために登頂する物語です。映像が大変美しい作品でした。

登山家にはバカな習性がありまして、芝崎がキスリングザックを背負っているシーンを見て思わず「そりゃ違うだろうが」と言ってしまいました。

キスリング(Kissling)とは、帆布でできた大型のリュックサックです。スイス、グリンデルヴァルトの馬具職人 ヨハネス・ヒューフ・キスリングが作ったものを、昭和4年に登山家の槙有恒と松方三郎が持ち込んで、日本ではこの名が定着しました。

キスリングさんがこのリュックサックを発明したわけではありませんし、キスリング製以外のものも含めてこのタイプをキスリングと言っていました。

ちなみに、明治後期に陸軍で使われていた背嚢(はいのう)は、木の枠に布を張り、その上に皮を張った箱型のリュックサックだったそうです。あいにく私は当時徴兵を受けていなかったのでこれは使っていません。陸軍でも布製のリュックサックが使われるようになるのは昭和に入ってからのようです。

柴崎と先陣争いをする山岳会の小島烏水が石油コンロを自慢するシーンがあります。このコンロはスベア123という製品で、実は私も使っていました(燃料はガソリン)。

冬山のビバーク(野宿)では頼もしい"仲間"でした。むろん、小島と同じ頃に買ったわけではありません。1世紀も続いているロングラン商品です。

キスリングの件はご愛敬ですが、この映画、および原作の小説(新田次郎著)は史実とは違った部分がいくつかあります。(その詳細は登山雑誌「山と渓谷」6月号に載っています)

このとき、山案内人の宇治長治郎は実際には登頂しませんでした。芝崎の記録には、「氏名不詳とせし男」が途中で「落伍した」とあるそうです。

長治郎は、彼の信仰心から禁忌の山に登ることをためらったのです。

「氏名不詳の」ではない「とせし」に芝崎の心情がにじんできます。

また、小島烏水は、この5年前に槍ヶ岳に登頂し、日本の近代登山を切り開いた人ですが、剣岳にはついぞ登りませんでした。測量隊と山岳会との先陣争いはそもそも無かったのです。

芝崎らの登頂から2年後に山岳会の吉田孫四郎たちが剣岳に登頂し、長治郎の功績をたたえて、彼が案内をした谷を長治郎谷と命名します。

氏名不詳とせし男が日本を代表する山岳ガイドの1人になったのです。私は吉田の行為にこそ感動を覚えます。

明治35年、小島烏水が槍ヶ岳に登ろうとしているときに父親から激しい叱責を受けます。

男たるもの、己の職務のために命を賭すのは当然である。しかし、遊びごときで危険を冒すとは何事だ。と

私も、人間はその本職においてこそ、社会に貢献するべきものだと思います。

芝崎芳太郎は測量官として、宇治長治郎は山案内人として、あたりまえの仕事をただあたりまえにこなしただけですが、それが後々の人々に感動を湧かせます。

【写真】キスリングザックとスベア123

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 L090606-058しまった。タイトルを間違えました。今回の話は「ナンバ歩き」です。私は硬派なので。
ナンバ歩きとは、右足と右手(正しくは右肩)を同時に前に出す歩き方です。

現代人が普通に歩くと、右足と左手を前に出す歩き方をします。そういう、反対側の手と足を交互に出す歩き方ではなくて、同じ側の手と足を同時に出す変な歩き方があるのです。

私が小学生のころ、運動会の行進などで、たまにこの変な歩き方をしている者がいて皆んなにからかわれていました。

ところが、20代の登山に熱中しているころ、ふと自分がそのおかしな歩き方をしているのに気がつきました。当時、ナンバ歩きという言葉はぜんぜん知らなかったのですが、これがけっこう合理的で疲れない歩き方なのです。

当時はキスリング・ザック(大きくて横幅の広いリュックサック)を背負っていました。そのため手を振って歩くことができません。そこで両手を腰の後ろ側に回して拳を作り、ザックと背中の間に差し込んでいました。拳をあてがうのは、ザックを前傾させて重心を前に出すためと、背中に風が通る空間を作るためです。

この姿勢では、右足を出すとき必然的に右半身を前に出すことになります。極端に言えば、体は進行方向に向かわずに左の方を向いてしまいます。

右足を出すときは左足を回転軸にし、左足を出すときは右足を回転軸にして、体を反転しながら歩くのです。(と、表現するほど大きく横を向くわけではなく、そんな感じ気分で)
これに対して普通の歩き方は、右足を出すとき左手を出すので、上半身と下半身をねじって歩きます。走るときにはこのねじりで体のバランスを取りますが、歩くときにはねじりがない方が楽なのです。

これは、相撲の"てっぽう"と言うのでしょうか、右手で押すときに右足を出すあの動きと同じものです。また、昔の飛脚はこの形で走っていたのだそうです。走るのには適していないように私は思います。だいたい、昔(江戸時代以前)の日本人は手を振って歩きませんでした。落語で若旦那が歩くとき、両手を袖の中に入れて前に突き出した所作をします。

ああいう歩き方(身分、男女、年齢などによって歩き方は違う)をしていたのでした。(べつに見てきたわけじゃないのですがね)

体をねじる歩き方は、明治時代にヨーロッパから軍隊の行進を取り入れて始まったものです。

最近はザックの横幅が狭くなり、ストック(杖)も使うようになって、ナンバ歩きでもない軍隊歩きでもない、またまたおかしな歩き方になっています。

ねえちゃん、お茶しません?

【写真】大座礼山

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